コラム

日本ダウン症会議ーダウン症のある人と専門家が「どんな人も豊かに生きられる社会」を考えた会議をレポート
前田 敦子

2017年11月11日・12日の2日間にわたって開かれた、第1回 「日本ダウン症会議」。ダウン症のある人やその家族、現在第一線で活躍している専門家や研究者、支援者などが集い、「新しいダウン症像」を考えて意見交換をする、日本で初めての催しです。

シンポジウムや分科会、ダンスパフォーマンスや市民公開講座など…ときに真剣に、ときに楽しく、多くの人が集まり、交流した2日間、その見どころを徹底レポートします!

第1回日本ダウン症会議は、ダウン症のある人たちが活動する「LOVE JUNX」のダンスパフォーマンスで幕を開けました。キレのあるダンスに、会場からは感嘆の声が。

続いて、玉井邦夫大会長の挨拶と、株式会社ミライロで講演講師として活躍する岸田ひろ実さんによる特別講演が行われました。

岸田さんは、16年前にダウン症のあるお子さんを授かりました。その後、パートナーの突然死、ご自身が病気の影響で下半身不随となるといった様々な出来事を乗り越え、現在は株式会社ミライロで活躍しています。

ご自身の体験をもとに、トラウマやコンプレックス、障害は克服すべきものではなく、強みや価値として生かしていこうという“バリアバリュー”の考え方や、さりげない配慮をしていこうという”ユニバーサルマナー”について語られました。

分科会では、各分野でダウン症のある人に数多く関わる専門家による、研究や課題について発表がありました。

1日目の医療分野の分科会では「成人期の医療課題」について、ダウン症がある人のアルツハイマーやうつ、成人期の健康状態についてや、小児科からの引継ぎでの留意点などの解説がありました。会場からは、薬剤についての質問などのほか、「仕事・通勤のストレスから認知症を発症したようだ」という声も。

「ダウン症のある人は頑張りすぎる傾向がある。無理しすぎるとうつや認知症を発症することもあり、頑張らせすぎないようにしてほしい」という専門家のコメントがありました。

2日目の医療分野の分科会は、子どもの健康管理がテーマ。

メガネを嫌がる場合の慣れさせ方や、発語がない場合の視力検査の方法、靴選びの方法などが紹介されました。質疑応答では、発達障害などの併存についても意見が飛び交いました。

参加者には医師や研究者、支援者のほか、お子さんと一緒の保護者も大勢参加。会場は赤ちゃんや子どもの声も混じり和やかな雰囲気でした。参加したお母さん方は、「普段の短い診療時間では聞けない話が聞けた」「成長するとどうなっていくかイメージしやすくなった」「本には載っていない具体的なデータを知ることができた」と話してくれました。

そのほか、保育分野「就学前段階での実践事例」、教育分野「小学校段階での実践事例について」「中学・高校段階での実践事例」、福祉分野「障害児者をめぐる法的な動向」「本人の暮らしのための相談事例」、就労分野「就労の在り方について」の各分野の専門家から発表がありました。

それぞれの分科会では専門家だけではなく、ダウン症のあるご本人や家族の発表も行われたのが、今回の日本ダウン症会議の特色ともいえます。

多くの人の前での発表でしたが、新野さんはリラックスした様子で、入院時のエピソードや治療後に痛みなく働けるようになったことへの喜びを語りました。

大好きな演歌歌手・氷川きよしさんの話を織り交ぜるなど、ユーモアも。終了後には「家で1日2回練習してきました。緊張しないで話せた」と感想を語りました。

2日目の医療分野の分科会の座長を務めた埼玉県立小児医療センターの大橋博文先生は「医療関係者、家族、ダウン症のある人が、本人を中心に置いた視点で集まっている。発表や質問も、ダウン症のある人のよりよい健康や暮らしに向けた連携が見られたのが、今回の日本ダウン症会議でよかった点」と手ごたえを感じている様子でした。

市民公開講座では、横浜のダウン症児サークル「オハナフラかながわ」のフラダンスがオープニングを飾りました。

「まだ発音もハッキリしなくて言葉も出ない子も、ハンドサインに似た要素があるフラの振り付けは覚えやすいのか、いつの間にか覚えていて驚かされます。体幹も鍛えられるように思います。踊っていると自然と笑顔になれることがなによりの魅力です」と、ハマヒアポの佐々木さん。

フラダンスの練習は月に2回。ダウン症のある子やきょうだい、保護者も一緒に踊っています。

司会の長谷部真奈見さんに「お母さんと踊るフラはどうでしたか?」と聞かれた佐々木梨優さんは「すごく、すごくうれしくなる!」と笑顔で答えてくれました。

今回のシンポジウムのテーマは「出生前検査(診断)」。

2012年に新型出生前診断が導入されて以来、公益財団法人日本ダウン症協会は、声明や取材に応じるなどしてその立場や考え方を表明してきました。しかし、主体的に発信することや考える場を持つのは、今回の日本ダウン症会議が初めての試みです。

座長を大阪医科大学の玉井浩先生、日本ダウン症協会の水戸川真由美さんが務め、足立病院院長の畑山博先生やお茶の水女子大学教授の三宅秀彦先生が産婦人科、遺伝科の医師としての専門的な立場から、出生前検査の問題をわかりやすく伝えました。

出生前診断では、妊娠中にダウン症をはじめとする遺伝子疾患の可能性がわかります。検査を希望する人も年々増えています。

検査の結果によって妊娠の継続をあきらめるというケースも少なくありませんが、両親が、正確な情報を得、自分たちなりの選択をできることが重要である。そのうえで、どんな選択をしても後悔させない、許容される社会にしていくことを目指すべきとの言葉が印象的でした。

また、出生前診断は生まれてくる赤ちゃんを早い時期から受け入れる準備をするためにも役立つということ。その観点から母親と家族の障害受容と産後のケアについて、助産師の立場から山梨大学教授の中込さと子先生が、山梨県の取り組みを紹介しました。
最後に、ダウン症のタレントとして活躍するあべ けん太さんが登壇。満員電車に揺られ通勤する仕事のこと、休日に楽しむビールやゲームのことなど日常の姿をユーモアたっぷりに教えてくださいました。

厚生労働省の研究班の社会調査でも、ダウン症のある人の9割以上が「毎日幸せ」と感じているという意識調査があります。

あべさんの「おかん、産んでくれてサンキュー!」という力強い言葉や毎日を楽しく精力的に過ごす姿、そして「ダウン症のことを知ってもらうために、世界中の人に会い、テレビにも出たい!夢は世界制覇です!」という言葉は、まさにこの調査結果を裏付けるものでした。

1日目の夜、大正大学内の会場で、交流会が催されました。交流会には、分科会に登壇した専門家だけでなく、日本全国から集まったダウン症のある人やそのご家族の参加も多数あり、120名以上の参加がありました。ダウン症のある人も参加するヘルマンハープの演奏でスタートし、料理を囲みながら日本各地の会員同士や、専門家との交流が生まれていました。

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